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使える漢字力を→そのアイデア
――反復中心の詰め込みではなく、1セット5過程と手首化――

――品川区案『中3までの漢字、中1までに習得』は教育的か――

漢字指導研究会(国字研)委員長
表現よみ総合法教育研究会代表

T 提案のあらまし

品川区の「小中一貫教育 教科カリキュラム」の中の「漢字配当」(案)*注1(平成16年8月30日現在)(以下、案)によれば、現在、中3までに読み・書きとして学習していた漢字(1306字)を、中1までに学習する案が提案されています。この案によって、

小学校3年生は現在の200字より85字増加の285字の読み書き、

4年生は現在の200字より100字増加の300字の読み書きをする事になります。

5年生では現在の825字より181字増加の1006字の読み書きとなります。

これは、中学1年生で書きが、国立国語研究所・文化庁調査の正答率49・3%以下だった漢字を小学校5年生に降ろすことになるのです。

この1006字は、教育漢字881字・996字当時の調査より、それぞれ125字・10字多くなっていて、881字・996字当時の文化庁・国立国語研究所「書き」の調査で、中学1年生が、49・3%以下だった漢字なのです。これを小学校5年生に降ろすというのです。

この49,3%ということは、「子どもの生活空間外の学びにくい漢字が、無思慮に入っている事を意味しています」と、大久保忠利氏は、述べています。(『国語教育』U・231P・三省堂・大久保忠利*2著作選集)中学1年生に無思慮だったら、5年生にとっては、どんなことになるのでしょうか。

* 子どもたちの漢字力の実態とその深刻さ

6年生の書きの習得率は、49.2%となっています。(1983年・1984年の国立国語研究所調査 これは、教育漢字数が996字で、1年から6年生までの国語の時間数が1540時間の時の調査です。現在は、1377時間で、163時間、国語の時間数が減っていますから、漢字力が、向上しているとは言えないでしょう。)この実態は、学習した漢字を自由に使って学習したいと考えてもそれが出来ない事を意味しています。学習の落ちこぼしなどもここからも考えて見る必要があります。

この案では、国語科の時間数を中3までで154時間、現在より増やし、小3年で50時間、小4で50時間増加させています。しかし、この時間数を増やす事で、案が教育的であるといえるのでしょうか。以下、この案について意見を述べさせていただきます。

*1・・・小学校1年生から中学3年生までの各学年に配当される漢字
*2・・・元・都立大教授

付け加え  今回の学習指導要領に基づく教科書から、漢字学習を読みと書きに分けて指導する(読み書き分離)ように記述されるようになりました。その為、子どもたちの学習と先生方の指導で混乱が起きています。子どもたちは、習った漢字は書きたいのです。それを別々にするというのですから、子どもの気持ちを見てないといってもいいと思います。品画区の案では、読みと書きを一緒に学習する「読み書き同時」を提案しています。
学習指導要領作成者は、この品川区の「読み書き同時」の提案はどうしてされたのか分析して見る必要があります。それにしても、「読み書き同時」になったり、「読み書き分離」になったりの変化は、子どもたちの学び方、教師の指導方法にすぐ、影響を与えますので慎重さが欲しいものです。

U どうしてこういう案を提起するのか、それは、ドリル中心の考えによるもので、結局は、詰め込み主義になる

1 品川区教育委員会・文化審議会の考え

提起の理由に「文化審議会の答申に基づいて」と述べていますが、文化審議会も区教委も、漢字教育は、「読みを知らせ、意味を説明し、書きを反復さるもの」と考えているのです。この文化審議会・国語分科会委員の斉藤孝氏は「漢字は、書き取りを徹底して反復すれば、少なくとも学年の配当漢字は身に着けさせることができる」と公言しています。

2 文化審議会の答申とは

この文化審議会の答申が、非常に非教育的なものです。

『声に出して読みたい日本語』の著者・斉藤隆氏は、の文化審議会国語分科会委員なっているのですが、この審議会が
「1945字の常用漢字を小学生で読めるようにする」という答申を出しました。

この常用漢字には、59年度中学校国語教科書から排除された漢字80字(廬・謁・帥・帥・嚇・朕・逓・畝・銑・逓・璽・嗣・屯・候・拷・錘・款・畔・猶・窯・桟・嫡・陪・寡・劾・繭・宰・硝・漸・・・・・・・・・・・・)が含まれているのです。はたして、委員は、1,945字の中の1字1字がどんな漢字か調べてみたのでしょうか。そして、これらの漢字の読みが小学生に必要かどうか検討をしたのでしょうか。

3 品川区案と斉藤孝氏の考え

斉藤孝氏は、文部科学省委嘱 文化庁主催「平成13年度・国語施策懇談会」で、「国語力を高める具体的提言」として、『声にて出して読む理想の国語教科書』を提起しています。氏はこの中で、

「漢字は書き取りを徹底して反復すれば、少なくとも学年の配当漢字を身につけさせる事ができる」

と述べていますが、これなどは、反復中心主義の考えの典型です。この批判は、『国語の授業』NO,175・2003年4月号(一光社)で書きましたので、詳しくは、そちらで。

4 必要な重要漢字をしぼって、それを駆使できるようにする

斉藤氏の反復中心主義について反省する上で、つぎの具体的な例は、参考になると思われますので一つ出しておきます。

僕らの研究会に東京の難関大学に合格させる御三家と言われる女子中学の先生が参加してきた事があります。

「私の学校は、できるという子どもが来る学校ですが、子どもを見ていると、漢字の意味・漢字の成り立ち・漢字の使い方をどのように学んできたのだろかという疑問があって、ここに参加してきました。参加してみて、私の考えと指導は、妥当だったという事が分かって安心した。」

と話していた事があります。

このことは、声に出して読めても、意味が分からない・使い方が分からないなどの場合がある事を語っています。学校教育では、この意味が分かり、使い方がわかり、使えるということが特別、重要です。

それには、常用漢字を読めるようにするという詰め込みではなく、漢字をしぼって、『重要な漢字』(教育基本語彙)*3に時間をかけて、使い方まで学習し、読み書きの両方で駆使できるように授業の中で指導することが必要です。

*3・・・例えば、3年生で習う「意」は、意外・意見・意味・注意・用意などが漢字語として3年生で出てきます。後の学年では、意気・意義・意向・意志・意識・意地・意中・意図・意表・意欲・悪意・敬意・決意・故意・好意・合意・真意・誠意・善意・創意・大意・敵意・得意・熱意・文意・意味深長・創意工夫などが出てきます。この「意」は、子供が学習するのに必要な漢字語をたくさん造ります。ですから、読み書きが出来るようにする必要があるのです。(『たのしく学ぼう漢字』ルック・104p)

5 区教委は、詰め込みにならないというが

若月教育長・中島指導課長は、詰め込みではないと、公言しています。それを、少し見てみましょう。

若月教育長は、平成16年9月24日の区議会で中塚亮議員の質問(競争教育・詰め込み教育の見直しを)に対して、「・・・・・、子どもたちに学ぶ事の喜びや楽しさを実感できるようにしたいと考えています。そのための教育計画に基づいて必要時数を算定したものであり、週当たり1時間から2時間程度の増を見込んでおります。従いまして、これは決して詰め込み教育と言うご指摘は、当たらないと考えております。」と、答弁しております。

また、平成16年9月29日の文教委員会では、沢田議員の質問、漢字の1945字を中学校3年から中学校1年に戻すとか、・・・・・は、前倒しではないかの質問に対して、若月教育長は「・・・・・、ですから、あまり前倒しと言うと事ばかりを過度に強調されてしまうと、区民の方々に、小中一貫校のイメージが、若干偏ってしまう印象をもたれうまくありませんので、それは一つ、よろしくご配慮戴ければと思います。」と、答弁しております。

*中島指導課長は、カリキュラムの説明で、「・・・・・無理な形で、漢字をどんどん覚えると言う事は、私どもは想定して御座いません。・・・・・・」と、述べています。

以上の答弁、説明から言える事は、若月教育長と中島指導課長は、詰め込みではないという見解をしめしているわけです。この見解は、詰め込みはよくないと言うお考えのもとに述べられているようです。ここに話し合って再検討する余地がありそうなので、救われます。

6 今までもドリル反復主義はある

それでは、このことについて考えるに当たって、今までの漢字教育の実態を何人かの意見をもとに振り返って、考えてみましょう。はたして、案は、「詰め込み・前倒し・無理な形で漢字をどんどん覚えること」にならないのでしょうか。正直に言って今でもドリ中心はあるのです。つぎの例をごらんくさい。

(1) 現在漢字教育に大きな影響を与えています陰山英男氏の理論、実践

氏は、「学年の配当漢字は、ゴールデンウィークまでに教えてしまう」
と述べ、著作の表紙に「徹底反復」と堂々とお書きになっております。氏のホームページでは、
「私は2週間で新出漢字の指導を終えるということを提唱しました。そして、そのための教材として、徹底反復漢字プリントを出しました。これはまず、1年間に覚える新出漢字の混じった例文を何度も読み、だいたいを頭に入れ、そしてその後、その例文の問題をコピ−して何度も繰り返して練習するというものです。7回も反復練習をすると、だいたい子どもは覚えて、書けるようになるものです。」
と述べています。そして、この後、夏休みは、復習と予習。秋からは、熟語をこなす。年度末は、まとめの問題集という計画を述べています。

ここで、指導と言っていますが、指導の具体的表れである授業はどのようにされているのか教えて戴きたいところです。今のところどんな授業か見えてきません。見えるのは、反復練習が中心です。

私たちは、反復練習は、必要だと考えます。しかし、その反復は、きちんとした授業があり、子供たちが理解した上の反復が効果的なのです。ですから、どんな授業なのか知りたいところなのです。

また、学年初めの2週間で新出漢字指導を終えるということですが、この2週間、国語科の読む・書く・話す・聞く・文法などはどのような指導・授業をしているのかも知りたいところです。

国語の力をつけるには、読む・書く・話す・聞く・言語事項の学習が必要です。漢字も大切な学習事項ですが、国語科の学習の全てではありません。バランスが必要です。こいうこと陰山さんに言う必要はないと思いますが、時々、漢字学習が、国語科の全てのような実践を聞くことがありますので述べてみました。

(2) 白石さんの意見

「一番オーソドックスな漢字指導は、新しい教材に入った時に新出漢字を、漢字ドリルをもとにしてやっていくんですよね。

低学年では、筆順などに気をつけて一字一字とても丁寧にやるんですよ、時間的にもゆったりしていますから。

ところが、3年、4年になると新出漢字の数も多くなり、指導が追いつかなくなってしまって、結局は子どもたちに持たせている漢字ドリルを家庭学習でやらせる。

そしてそれを教師が見る。まだ見る方はいい方で、やらせっ放しという人も多いと思います。

そして「じゃあ、漢字ドリルのここからここまでテストするから覚えていて」とやるんですね。

大体漢字ドリルが中心になりますね。」(『国語教育相談室』NO,18、特集・漢字学習を考える、光村図書、1997・11、筑波大付属小学校教諭 白石 範孝)

白石さんは、実態を学年を追って語っています。これほどリアルに実態を語った意見は、珍しい。非常に貴重な意見です。教師は、個々には、このような思い意見を持ちながら、公的な場にはなかなかこのようには出しません。教師がこのように自由に語れる配慮(これが、今、うんと必要です。)と教師個々の勇気・正義感が必要なのではないでしょうか

(3) 甲斐さんの意見

「・・・・・結論から言うと、どうも漢字の指導が家庭学習などに回されて、教室で行われていないところが多いと思われるんですよ。ですから、漢字の指導をぜひ授業に取り戻してもらいたい。そして、科学的な指導をしてもらいたいと思うんです。」(上記書、国立国語研究所日本語教育センター長、甲斐 睦朗)

甲斐さんは、白石さんがいう実態をしっかり把握しているので、このように「・・・漢字の指導をぜひ授業に取り戻してもらいたい。そして、科学的な指導をしてもらいたいと思うんです。」と、発言されているのだと考えます。

僕も、同感です。漢字は、ひらがな・カタカナと同じように読めて、書けて自由に使える必要があります。その上、漢字には、意味があり、重要な学習の上で必要な基本の用語(学習基本用語・教育基本用語)があります。

例えば、原因・結果・理由など。ですから、必要な漢字は、自由に駆使できることが重要です。教科書が読め・教師の話している事が理解でき、友達が話している事が分かることは、授業に参加できて、授業がわかる最低の条件だからです。

(4) 茨城のA先生の意見

(2)(3)は、1997年のものです。それでは、1982年のA先生の意見・声を見てみましょう。教師用指導書に対する意見です。

文学作品の指導の記述が次のように展開されています。その中に漢字指導の記述があり、その記述について意見を述べています。

a全文をよみ、大体をつかむ。
b一番強く残った事を発表し合い,学習のねらい、方法を考える。
c新出漢字の読みと筆順を練習する。
d各場面ごとに中心人物の気持ち・背景・様子を詳しく読み取る。
e一番心に残った所を視写、朗読して味わう。
f感想文を書く。
g漢字・語句の練習をする。

この事に関して、cとgは、いかにも取ってつけたような学習である感じは免れません。しかも現実には、abやdeの学習が主体であって、それに手間取る事が多く、漢字の学習は、時間切れ切捨て・・・・なることが少なくありません。abdefは、・・・・・・・・重要な学習事項です。又、その過程で生きた漢字として漢字を学習させる事も間違いではありません。が、それでは、不十分である事も否めません。と、意見を述べ、「漢字の取立て指導」(*注3)を次のように提案しています。
*3漢字を文学文・説明文などから独立させて、時間を確保して指導する事
読める段階の指導・・・字源・語源・意味の学習
書ける段階の指導・・・筆順・字形の学習
使える段階の指導・・・熟語・短文作り・文、文章への活用の学習
を提案しています。(『小学校の国語教育』6・明治図書・1982年・P84・85、茨城県の先生)

(4)の茨城のA先生は、指導書の記述と普通のクラスの文学の授業について、分析して、漢字指導の在るべき形態を提案しています。私もかつて文学の指導書を執筆したことがありますが、このように執筆しました。文学の授業をやりながら漢字の指導に突っ込んでしまうと、文学の授業の流れが切れてしまうので、こうならざるを得ないのです。ですから、提案のような取り立てた指導が必要なのです。

*来年度から使用される科書を分析してみましたら、このような視点で編修された教科書が1社ありました。しかし、残念なことに、その指導時間の保障がないのです。

以上からして、ドリル中心はあるのです。品川区案は、これに更に拍車をかけることになります。

しかし、これでは、漢字の力が着かないことは、多くの先生方の実践から見えているのです。では、どうするか、それを見てみましょう。

V 使える漢字力は、ドリル中心ではなく「読み・書き・意味・使い方」を学び、使い合う学習の導入で

1 漢字指導法研究会の模擬授業から

漢字指導研究会夏季アカデミーの模擬授業で、東京の小学校の先生は、は、3年生の新出漢字、『物』の授業を次のよう展開しました。

T なんと読みますか
Cブツです。
Cモツです。
Cものです。

Tこの漢字、どこで見た事がありますか
C動物園でみました。
C物産展でみました。

Tでは、意味を調べましょう。わかる人?
C物や品物のことです。
C物事のという言葉の時に使います。
Cことがらです。

Tそれでは漢字・「物」の成り立ちを説明します。
「勿」は、(絵を描きながら)色々な色の切れで作った吹流しです。遠くから見ると色が混じり合ってはっきりしないので、これだ、とはっきりしないものという意味を表します。
それに「牛」は、牛の代表・動物の代表、物の代表という意味で、「勿」と一緒になり、今は、動物その他の色々な「もの」を表すようになりました。

Tそれでは、筆順に気をつけて書いてみましょう
子どもたちには、それぞれ漢字学習プリント配布しておき、そのプリントで練習をする。
C一人一人、書く
「牛」と「午」は区別しよう。「牛」は突き出ますが「午」は突き出ませんね。

Tでは、(   )に読みがなを書き入れましょう
(1)人にかりた物(   )はたいせつにね。
(2)  兄は、動物(   )の名前をたくさん知っている。

T 次は、?に漢字を書き入れましょう
(1) クラスで、おとし?係(がかり)になった。
(2) (2)父は、荷?(もつ)をロッカーにあずけた。

T「物」を使って文を作りましょう。(子どもたちは、一人一人、文を考えそれをプリントに書く(3分ほど)
T書いた文を発表しあいましょう。(子どもたちが発表する)
Cこれは、わたしのもち物はこれです。(鉛筆を指して)
Cチューリップは、植物です。
Cごはんは、たべ物です。
C食べ物の事を食物(しょくもつ)ともいいます。
Cぼくは、物がたりがすきです
など、一人一人が発表する。(このような授業を「1セット5過程」の授業と呼んでいます。)

実際の子どもとの授業では、こんなにスムースには進みません。間違いを発表する子もいます。その間違いを話し合い、正していく中で「物」という漢字の意味(概念)をより深く身に付けていきます。また、「物」を使って文を書き発表すると、「物」という漢字は、このように使えるのかというイメージがわき始めます。

この文を書く(文作り)でも、間違った使い方をする子もいます。「ぼくは、幸せ物です」・「わたしは、物レールに乗った」などです。このように実際、文に書いて、使ってみると、その漢字のイメージが身に着き、使い方も分かっていきます。

実際、このような授業をすると1字の漢字で15分は必要です。

ですから、品川案のように4年生で300字を教えるなんてとってもできません。わたしたちは、小学校で600字前後の漢字をこのように丁寧に指導する必要があると考えています。

なお、漢字教育の最近の1年間にわたる2年生の実践を、この様な内容で具体的に述べている報告があります。これは、公的研究会でも報告されているものです。ご紹介しておきます。(『子どもと教育』ルック出版・2004年9・10・11月号・「小学生の漢字力と1セット5過程の実践」)教師の教育へのひたむきさと漢字教育の実践が一体となり、読後、とってもいい気分になりました。

2 漢字指導研究会の分科会報告から

「今度の学習指導要領では、国語の授業時数は、224時間減らされているのに(これは、今までの1学年分の国語の時間に当たります。)漢字の各学年への配当字数は、変わりませんでした。一字一字丁寧な指導をしていたら、国語の物語文・説明文を読み理解する事、話す、聞く、文法などの時間が十分取れなくなってしまいます。

そこで、漢字指導法研究会の提案のように、5年185字、6年181字をA、B,Cの3つのランク(下記*参照)に分け、まず、Aランクのものから1字間に3字から4字を指導しました。

Cランクの漢字は、火曜日の朝自習の時間に2字ずつ「漢字プリント」と「漢字字典」を使って調べ学習をさせました。」     

*Aランクの漢字・・・読み書きなどで使えるようにする(5年・・・78字  6年・・・49字)
* Bランクの漢字・・・読めて意味が分かるようにする(5年・・・49字  6年・・・40字)
* Cランクの漢字・・・教科書に出てきたときに読めて意味が分かる。(5年・・・56字  6年・・・92字)
(第20回漢字指導法研究会・2004、8・高学年分科会・C先生)

この意見は、漢字指導をどうするか具体化した実践を報告しています。その実践は、一つ一つの漢字を分析し、今、国語科の読む・書く・話す・聞く・文法などとのバランスの上で読めて・書けるように指導する漢字と読みと意味が分かるようにする漢字に分けています。その上の指導です。レポートです。

*今回の指導要領の下の教科書になって、
「漢字に追いまくられて、文学文・説明文・作文・文法などの指導が、大変、忙しくなってしまった。」
という声を悲鳴のように聞きます。これで、国語の授業はこれでいいのかという思いは、いつも、体から離れません。
というのは、これでは、授業が子どもたちにとって楽しい場所ではなくなるからです。
授業が楽しく、授業の中で友達から教えられたり、教えたりできたら、こういう中からも友達・人間の大切さを感じ、教育基本法がいう人間の尊厳を少しずつ体得していくのではないでしょうか。
また、最近、日本の学校のあちこちの教室で悲しい事件が時々、起こっております。楽しい授業で友情を育む友達関係を作れたらそういう事件を減らしていく一つの力になるのではないでしょうか

W 品川区案は根本に立ち返って再検討を

私は、かつて2社の教科書の教師用指導書を書いたことがあります。今までの研究成果を日本中の先生方に参考資料とし読んでいただければと考えたからです。しかし、執筆しながら心に重くひっかかったのは、
「この指導書がどのように読まれるか」
という事でした。1006字の漢字数では、このような指導展開は、時間が無くて、まったく出来ない事が分かっていたからです。

「これを読んだ先生方がかえって苦しくなってしまうのではないか」
という思いが常に頭の中にありました。

「先生方は、どのようにこれを読みこなして、授業をしてくださるか」
とい思いは体から離れませんでした。又、それで、子どもはどんな授業を受ける事になるのだろうかという思いを常に持ちながら執筆しました。

「『先生ぜんぜんわかんないよ』と叫ぶ子がいました。

『それじゃ、わかんない原因はなんだと思う?』と生徒たちに聞いてみました。

『先生の授業のやり方が悪いから』には手が挙がりませんでした。

『教科書が悪いから』には一人の子が手を挙げました。残り30人がいっせいに手を挙げたのは、
『私の頭が悪いから』でした。

びっくりしました。何かあればすぐ他人のせいにしたがる子どもたちが、こと勉強については自分の頭が悪い、と思っている。ここにストレスの根本があるのではないか、と思いました。」(東京の中学の理科教師(『労働運動』2002・12・NO・460,40P)

このように分からない原因を自分のせいにしている子どもたち。自分をしぼませてしまっています。中学生の大事な時期にこのように思っていては、夢も希望もなくなってしまします。これでは、友達が大切であるという感情も消えていくでしょう。クラスで色々、事件が起こりますが、こういうところからも考え直して行きたいものです。

甲斐さん(現・国立国語研究所所長)は、「・・・・・授業で・・・科学的指導を・・・」と、発言されておりますが、その内容は、どんなことを含んでいるのでしょうか。それは、この冊子の対談を読むと推察できますが、(3)の茨城のB先生の提案、(4)のC先生の実践報告、このすぐ後に出てくる文部省初中局視学官・渡辺富美雄さんの意見と重なる所が多いのではないかと推察いたします。

このような授業には、当然、一定の時間が必要です。

この時間の確保の必要性を前出の『国語教育相談室』で棚橋尚子さん(群馬大学講師)が真剣に訴えています。

また、文部省初中局視学官・渡辺富美雄さんは、
「・・・漢字は、文字形態によって意味内容が違ってきますから、他の文字を覚えるよりも多くの時間をかけなければ、読めても書けるまでにはならないし、しかも正しく使えるようになりませんから、文字指導の中でも漢字指導にどうしても力点が置かれてくるのです。」(前出の『小学校の国語教育』6)
という意見を述べています。とにかく時間の確保は、どうしても必要です。買い物には、お金が必要ですが、この時間は、買い物のお金のようなものです。

以上、概略を述べましたが、指導内容と指導時間は、密接に結びついていますので切り離さないで論議すると、漢字教育のあるべき姿が見えくるのではないでしょうか。

この点から、若月教育長・中島指導課長が、漢字教育の内容をどのように考え、どのような指導の流れをお考えなのか教えていただきたい所です。それが分からないと、提案の妥当性の裏づけが見えないのです。

X 品川の案に対する意見

以上からして、自ずと、品川の案には、大変な無理があると考えます。

貴会の提案は、
(1)すべての子どもにどの漢字を読み書きできるようにさせるかという教える漢字とその漢字数
(2)どのような教え方(授業)をするか
(3)そのためにどれだけの時間を確保するか

など、これらの関連を踏まえての検討が必要だと考えます。

貴会は、文化審議会の答申「小学校で1,945字の常用漢字(前出)が読めるようにする」という案を基にして提起しています。この文化審議会の答申そのものが子どもの発達段階から見て無理があります。それは、前に少し触れただけでもお分かりになっていただけると思います。

貴会でも「常用漢字の1字1字に当たって、これを小学生に読ませて学ばせるべき漢字かどうか」ご検討をお願い致します。

そして、案を作成するに当たっては、現場で子どもの指導に当たっている多くの教師の声をお聞きになって欲しいです。また、多くの教師の実践をもとに検討し、その上で、実践をまとめた資料・出版物などもご参考になって戴きたいと思います。

なお、「常用漢字の告示」についての経過については、前出の『国語教育』Uに詳しく出ていますので、ご紹介しておきます。

この常用漢字については、制定当時、中学校の教科書からさえ排除された漢字が入っている事は、前述しました。これを小学生に読ませるというのです。

子どもたちに無理な漢字教育ではなく、たのしい漢字教育で漢字の力ら着けてやるように、日本中で考えあいましょう。

漢字は、学習を支える基本的要素なのですから。

これが教育基本法のいう「人間の尊厳」の教育の具現化の一つなのではないでしょうか。


*参考文献 『漢字と教育』・一光社・(絶版)・大久保忠利
『児童・生徒の常用漢字の習得』・東京書籍・(絶版)国立国語研究所
『楽しく学ぼう漢字』(ルック・田村・乗木 養一・紺屋 冨夫編著)2003
   
*提案者 漢字指導法研究会(国字研)委員長
表現よみ総合法教育研究会代表
  編著 『子どもが変わる漢字の指導』(下町人間総合研究所)2002
『子どもと創る表現読み』(あゆみ出版)1998
『小学生の作文教育』(明治図書)123年・456年、1982読売教育賞賞外優秀賞
  共著 『話・聞き話し合い教育』(明治図書)1982
『表現よみ・その理論と教育実践』(あゆみ出版)1996
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